RESEARCH

研究内容

大気圧酸素プラズマを用いた免疫細胞の活性化

 人間の体内にある免疫細胞は,外敵であるウイルスや細菌を排除するだけでなく,がん細胞や体内の異常を監視する役割も担っています.私たちは,大気圧下で安全に使用できる酸素プラズマを用いて,免疫細胞の機能を活性化させる新しいアプローチを提案しています.プラズマ中で生成される酸化力の強い活性種は,数マイクロ秒と非常に短い時間で反応を終え,速やかに失活します.これにより,細胞に長期的な刺激を与えないため,精密な細胞活性制御が可能になると期待されています.
 これまでの研究により,大気圧酸素プラズマを細胞に照射することで免疫細胞の増殖が促進されることが明らかになってきました.さらに現在は,細胞活性化や分化の制御といった,より高度な細胞機能の調節を目指した研究にも取り組んでいます.プラズマによる物理的かつ化学的な刺激が,細胞表面の受容体や細胞内シグナル伝達経路にどのような影響を及ぼすかを解明することで,プラズマを用いた新たな免疫制御法の実現を目指しています.現在は,医学部や農学部などの他分野の研究機関と共同で研究を進めています.

大気圧プラズマを用いた低侵襲ながん治療

 がん治療においては,がん細胞のみを選択的に不活化させ,正常細胞への影響を最小限に抑える治療法の確立が望まれています.私たちは,大気圧下で安全に使用可能な酸素・ヘリウム系の大気圧プラズマを利用した,非侵襲的かつ選択的ながん治療の実現を目指しています.プラズマによって生成される活性種は,がん細胞に対して強い酸化ストレスを与え,アポトーシスや細胞周期停止を誘導することが報告されています.
 現在は,がん細胞の三次元スフェロイドモデルを用いた評価系に対してプラズマ照射を行い,その不活化特性を調査しています.これは実際の腫瘍組織に近い構造と性質を持ち,より現実的ながん治療効果の評価が可能です.プラズマ照射が腫瘍微小環境や免疫応答にもたらす影響についても着目し,がん治療と免疫制御を融合した新しい治療戦略の確立に向け,学際的な連携研究を推進しています.

酸素プラズマを用いた人と環境にやさしい医療用滅菌器の開発

21世紀はウイルス.細菌との戦いの世紀と言われています.細菌等の微生物を滅菌する技術は医療や食品産業等の広い分野で用いられ,我々を感染症のリスクから守っています.
 現在,医療分野では医療器材等の滅菌にエチレンオキサイドや過酢酸等の劇薬が主に使用されています.これらの滅菌法にかわって,人と環境に安全かつ無害な酸素プラズマを用いた滅菌法を考案し実用化に向けて研究開発を行っています.
 酸素プラズマ滅菌法では,空気から酸素を取り出してプラズマを発生させますので,プラズマの原材料を用意する必要は無く,あとは電源のみで使用できます.従って,病院内でも非常に安全に使用することが可能です.また,薬剤が入手困難な災害地や未開地でも太陽電池のみで使用可能です.酸素プラズマは1000分の1気圧の状態でのみ発生し,大気圧では酸素分子に戻るため,酸化力の強い酸素プラズマが人に触れることはありません.このことから,換気の出来ない場所で使用でき,将来的には宇宙船や宇宙ステーションでも使用可能です.

農産物や種子のプラズマ殺菌および成長促進

近年,果物や野菜に残留する農薬が大きな問題となっています.これまでの化学薬品を用いた農産物や魚介類の殺菌や防カビ方法の代わりに,毒性・残留性の無い酸素プラズマ・ラジカルを用いた新しい殺菌・鮮度維持方法を開発しています.また,植物の種子に付着している病原性細菌による農産物の被害が多く報告されています.この種子上の細菌をプラズマによる殺菌も行っています.
さらに,プラズマを当てた種子の発芽や成長が促進されることが明らかになってきました.プラズマによる成長メカニズムの解明に加え,植物の発芽・成長促進にとどまらない新たな機能や価値を引き出すことを目指した研究に取り組んでいます.この研究はNHKの特集「サイカル研究室」でも紹介されており、一般の方にもわかりやすく解説されています。ぜひ以下のリンクからご覧ください:
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2022/10/special/kenkyushitsu/scicallab6/
現在,九州内の各大学,農業試験場,装置メーカーおよび九州経済産業局と共同で研究開発を進めています.